First Penguin

映画、アニメ作品などの内容のまとめ及び感想の備忘録

攻殻機動隊 S.A.C. ep.1 「公安9課 (SECTION-9)」

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Introduction

攻殻機動隊 S.A.C. の第一話 a stand alone episode 1

タイトル、サブタイトルともにシンプルで、エピソード全体としての導入にあたる話になっている。世界観と公安9課の紹介がなされる。

冒頭に、

あらゆるネットが眼根を巡らせ
光や電子となった意思を
ある一方向に向かわせたとしても
"孤人"が
複合体としての個になる程には
情報化されていない時代…

とあるが、これをかみ砕くと

「ネットが社会全体に普及し、人々の意思や思考が電子化してネットを巡るようになった。その結果として、人間は独立した個人の複数ではなく、複合体として一つになる。その過程の時代」

くらいになるだろうか。

ネットを通じてあらゆる人間の、あらゆる情報(意思や思考までも)が共有される時代においては、個の在り方は変質するだろうという示唆だろう。

 

Abstract

料亭で外務大臣一行が芸者ロボットによって拘束される事件が発生。

9課のメンバーが現場へ潜入し、無事に大臣を救出する。

犯人の目的は大臣の命ではなく他のところにある様子。

真相を明らかにすべく9課は捜査を始める。

 

Discussion

 素子が犯人の一人に迫るシーンからスタート。例によって高所から降り立つ。戦闘が始まり、犯人、素子ともに超人的な身体能力を見せる。破壊される犯人の手足からコードが覗くことからも、その体は生身ではなく義体化されたものだと分かる。犯人を取り押さえた後、バトーと荒巻の通信が入り合流。

 義体化が一般的であり、無線による相互通信が簡単に行える世界観が読み取れる。犯人を取り押さえた時の、

犯人「お前ら警察か。もはや体制に正義は成しえない!」
素子「世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら、耳と目を閉じ口を噤んで孤独に暮らせ。」

素子のセリフはJ・D・サリンジャーによる小説「ライ麦畑でつかまえて」におけるホールデンのセリフ、

「I thought what I'd do was. I'd pretend I was one of those deaf-mutes」

の引用である(思い切った意訳がされているが)。また、細かな点を上げれば犯人は「笑い男」のキーホルダーを下げている。

 

 警察関係者と軍関係者(クボタ)とのやり取りに割って入る荒巻。警察から事件の説明がなされ、9課が処理する事となる。事件の概要、軍の介入の可能性について少佐たちは連絡を取り合い作戦行動を開始させる。少佐とバトーは先行中。トグサ、イシカワは回線を操作している。サイトーは狙撃準備。パズ、ボーマの2人は別動隊として待機中の模様。

 作戦行動に移った9課の様子が描かれ、メンバーの紹介がスムーズになされる。9課の課長である荒巻はそれなりの立場の人間らしいことが窺える。少佐こと素子が指揮をとっており、バトー、トグサは実動隊、サイトーは狙撃、イシカワ、パズ、ボーマは後方支援などの役割であることが分かる。また、

トー「ロボット芸者が待遇の改善を要求してきたら」
トグサ「あんたは…」

この一言からバトーの(見た目に似合わず)人間味あふれる一面が窺える。荒巻がクボタと会話をする際、わざわざ有線で通信を行っているが、これは無線通信が簡単に行える時代における傍受の危険を回避する手段だろう。警察の説明では料亭内で捕らえられているのは外務大臣一行という話だったはずだが、中には軍関係者もいるらしい。

 

 潜入した少佐が現場を制圧、無事に外務大臣、後援会長、北米産業役員を救出。秘書官は重傷、もう一人の北米産業役員は死亡。芸者ロボットからの逆探知で犯人を特定。待機していたパズ、ボーマとバトーが犯人を追う。捕獲に成功するも犯人は自らの記憶を焼き消してしまう。

 義体を透明化して潜入していく様子が格好良い。素子の戦闘能力の高さが分かる。トグサに介抱される大臣がジュラルミンケースを持ち去るシーンが伏線となっている。犯人を追うシーンで、

ボーマ「車の前に飛び出すなよ」
トー「子供か俺は!」

とのやり取りがなされ、直後に犯人に飛び掛かり車の前に飛び出すバトーがかわいい。

 

 重傷を負った大臣の秘書官の女性は、クボタの部下で大臣の身辺を内偵していた事が明かにされる。大臣の周辺で一ノ瀬レポートに興味を示す動きがあることが内偵の理由であった。

 冒頭で軍が事件に介入したがっていた理由が明らかになる。クボタの言っていた軍関係者とは外務大臣の秘書官の女性だった。一ノ瀬レポートとは「非常時における外交及び軍事的戦術シナリオ」が記されたものらしい。軍機密ではあるが、大臣から直接の要請があれば開示される物。これを知りたがる動きが大臣周辺であるものの、大臣からの直接の要求がないことを軍は怪しんだようだ。この後の、射撃訓練を行うトグサに少佐が声をかけるシーンで、少佐が本庁からトグサを引き抜いたこと、トグサは義体化していないこと、それ故にトグサの役割は身体的な能力に依るものではない(工作や調査、推理だろうか)ことが分かる。

 

 調査を進める9課のメンバー。荒巻は一ノ瀬レポートと軍の関係を探る。事件現場を洗い直した少佐とトグサの報告により、事件の真相が明らかになる。真犯人は北米産業役員で、目的は外務大臣の容姿を手に入れるために脳殻を積み替えることであった。目的を果たした役員は、外務大臣の姿で一ノ瀬レポートの開示を要求し、アメリカへ持ち帰ろうとする。

 公園で荒巻が老人と会話するシーン、

老人「一ノ瀬レポートは軍の予算に影響しない」
荒巻「政、官どちらの意向だ」
老人「あれで損をする軍人はあれを知る立場にない。知らない者は探さない」

ここで本事件と軍に関係性がないことが分かる。事件後にクボタが軍の関係性について十分に語ったはずだが、荒巻は入念に調査している。少佐の報告は以下の通り。

・北米ニュートロン社製の脊椎ユニットを搭載していたはずの男性の破損した筐体を集めても元の筐体が組み上がらない。
外務大臣が芸者をトイレに連れ込んだ後、北米産業役員もトイレへ。その後秘書官が様子を伺いにトイレへ向かい襲われる。
・もう一人の北米産業役員は、役員、秘書官の順で襲われたと証言しており、これと映像は食い違う。
・後援会長は秘書官の悲鳴を先に聞いたと証言。
・秘書官は何かを見たために襲われた。

その後トグサが、北米産業役員がトイレに入ったときに持っていたはずのジュラルミンケースを、襲撃後は大臣が持ち帰っていることに気づく。証言の食い違いから北米役員は怪しい。そして死亡した(ように見えた)北米役員の脳殻が外務大臣のものと積み替えられたとすれば、破損した筐体はダミーであり元の筐体が組み上がらないことにも説明がつく。軍事機密である一ノ瀬レポートを盗み出すことを目的とした北米産業役員による犯行であることをトグサが見破る。前述の通り、ここではトグサが捜査、推理の役割として活躍している。

 

 レポートを持ち去ろうとする外務大臣(の姿をした北米産業役員)に礼状を突き付け、捕獲する9課。外務大臣の脳殻も無事に奪取。

 このシーンを見た時には礼状はブラフだと思ったが、その後のクボタとのやりとりでそうでないことが分かる。短時間で政治家を説得した荒巻の立場の特殊さが際立ち、最後の、

荒巻「それが公安9課だよ。」

このセリフがそれをさらに印象付ける。

 

Conclusion

タイトル通り、公安9課とそのメンバーを簡潔に紹介する内容となっている。

北米産業役員による軍事機密文書の奪取未遂が事件の真相。

a stand alone episodeとある通り、この事件と後のエピソードとの関連はない。

 

 

 

 

 

 

 

*1:©士郎正宗Production I.G/講談社攻殻機動隊政策委員会 攻殻機動隊 S.A.C. 第一話より引用